逸見鍼灸代表
逸見 裕
筆者
鍼灸師として活動しながら、東洋医学の素晴らしさを現代医学で理解することでより深い鍼灸治療を提供します。東洋医学だけではなくトレーニングやカイロプラクティックを取り入れ、人の身体に対し幅広くアプローチを行い健康社会の実現を目指します。
目次
更年期障害は様々な不定愁訴が現れ、基本的に閉経後のホルモンバランスの乱れからなるとされています。
しかし閉経後の時だけではなく、ホルモンバランスの崩れは自律神経の乱れなどで起き、更年期障害に似た症状はどの年代でも現れてきます。
東洋医学では五臓六腑の気血津液のバランスと考え、更年期障害とひとくくりにはしません。
東洋医学でいう肝の乱れでは、気がのぼせ、めまいやイライラなどの症状が現れ、これもまた現代医学では更年期障害とされるでしょう。
脾の問題であれば、倦怠感や食欲不振などの症状が現れ、これもまた更年期障害とされるでしょう。
更年期障害でも様々な原因があり、どの年代でも更年期障害と似た症状は現れます。
閉経後に更年期障害にならない方もおられますが、そういった方々はこの五臓六腑のバランスが整っていると言えます。
精神的症状であるイライラは東洋医学では肝の症状となります。
不安感は肺や脾の問題になります。
めまいは肝や腎の問題です。
不眠は肝や脾の問題が多いです。
発汗は心の問題が多いです。
ホットフラッシュは心と腎の問題で起こりやすく、肝の影響も考えられます。
倦怠感は脾の問題が多いです。
(肝・脾・腎などの専門用語についてはこちらを参照ください:鍼灸用語解説>)
このようにそれぞれの症状は五臓六腑の状態が症状として現れ、更年期障害でも人それぞれ原因があるということです。
原因が様々なのでそれぞれが同じ治療というわけにはなりません。
体質の強弱もあるので治療法も異なれば、刺激の量も異なってきます。
この強弱をつけるのに鍼灸治療では補法(ほほう)と瀉法(しゃほう)といいます。
例えば、肝の働きが旺盛で、頭痛やイライラ、目の充血などの症状がある場合では肝の瀉法を行います。
瀉法行うことで肝を鎮静させることができます。
肝の血液が不足して、ドライアイや不眠などの症状がある場合では肝の補法を行います。
肝に血液が集まり治癒に向かいます。
このようにして原因に対して体質も考慮したうえで治療する必要があるので、更年期障害の治療は一概には言えないのです。
更年期障害を伴うのは一般的に閉経後とされています。
最近では男性の更年期障害もあるとされてきていますが、男性には閉経はありません。
要するに自律神経が乱れ、ホルモンバランスが崩れてくることが更年期障害と言えます。
そのタイミングが40代から50代で起こりやすく、体質的にも変化が起こりやすい時期かと思います。
特に20代から30代で社会的ストレスなどを受け、段々と積み重なってきた疲れが自律神経を崩していきます。
それが更年期障害へとなっていきます。
すでに30代くらいから眠りが浅く、朝起きても疲れが取れないという症状がある方は、身体のケアをせずに過ごすと様々な症状が出てきます。
ここからが更年期障害の始まりなのです。
更年期障害になる方とならない方の差は、30代のころから身体のケアをしてきているか、していないかの差が大きいです。
睡眠の問題が最初の更年期障害の症状と考えていいです。
しかし睡眠の問題はなかなか気がつかないことが多く、症状は次第に次の段階に進んでいきます。
睡眠の質が落ちると疲れが取れず、美容面に問題が出てきます。
肌の状態やしわ、たるみなども出てきます。
普段美容を気にしない人はここも見落とすことが多いでしょう。
この美容面も30代ころから気になってくるでしょう。
この睡眠の質は、東洋医学では肝の問題が多く、肝は精神的、肉体的ストレスに影響してきます。
肌の状態も身体の中の異変が肌の状態に現れます。
よく耳にするのが「便秘は肌の状態が悪くなる」というのも東洋医学的に理にかなっています。
睡眠の質や肌の状態が悪くなってきている時点で、五臓六腑のバランスが乱れてるということです。
更年期障害では様々な原因があります。
肝の問題では眠りが浅くなり、精神的にもイライラしやすくなります。
この場合、精神的にも肉体的にもリラックスを促すために、副交感性に働きやすくするように鍼灸治療をしていきます。
特に肘から末端、膝から末端のツボでは迷走神経を介して身体の興奮を抑制することができます。
よく使うツボで、合谷(ごうこく)と足三里(あしさんり)は心拍を安静にし、精神的、肉体的なストレスを緩和することができます。
合谷や足三里に刺す鍼の太さは細めを使い、刺す深さも皮膚を貫通させるくらいのごくわずかな刺激量にすることで効果が大きく出ます。
他にも肝の気は上に上りやすいため、百会(ひゃくえ)にも鍼を刺すと、肝の気は下がって精神的イライラもスッと緩和します。
刺したまましばらく置いておくことで次第に身体の緊張はほどけてきます。
緊張がほどけてきたら、背部兪穴(はいぶゆけつ)など背面部の治療に入ります。
背部兪穴では特に肝兪(かんゆ)への鍼刺激をしていきます。
肝兪は背中の緊張を軽減するのと、頭部や頸部の緊張も緩和してくれます。
更に肝は目に影響を及ぼすため、目の状態も整える必要があります。
風池(ふうち)、太陽(たいよう)といった目のツボに鍼をしていきます。
これくらいの治療で治療後はかなりリラックスができ、眠りが深くなってきます。
時間はゆっくりと治療をするほうが効果が高いので1時間くらい治療します。
お灸も同じようなツボに施していきます。
しかし肝の気が盛んになりすぎている場合ではお灸はしないことが多いです。
肝の気が盛んになりすぎると、熱がこもりやすくなるため、熱を逃がすように治療する必要があります。
もしお灸で施していく場合は太谿(たいけい)、三陰交(さんいんこう)にすることがお勧めです。
肝は胆と表裏関係であり、胆もまた精神的ストレスに抵抗できる臓器です。
胆は決断力や勇気といった精神を主るとされております。
胆汁の分泌が正常に促されていることで脂肪の消化吸収がスムーズに行われ、腸に負担が少なくなります。
そのため腸内環境が正常に保たれやすく、セロトニンの分泌が正常に行われやすくなるため精神に関与すると考えます。
しかしこんな単純なことだけでなく、身体の中ではもっと複雑な活動が行われていると思います。
東洋医学は現代医学だけでは理解できなこともたくさんあります。
胆も更年期障害に関与するので、油ものを食べすぎることでも症状は悪化しやすいということです。
更年期障害で汗が止まらないという症状は心の問題が考えられます。
心は汗をコントロールする臓器です。
大勢の前に立って緊張すると汗が止まらないという経験はあるでしょうか?
その場合の精神的緊張は心に問題があります。
心はすべての精神活動を支配しており、記憶、思考、意識、判断などをコントロールします。
心は言い換えればメンタルです。
メンタルがやられると頭も働かないし、間違った判断をしてしまうことが多いです。
更年期障害でもメンタル状態の悪化はよくある症状です。
心は舌の運動や味覚に関与し、言語障害や味覚異常が起きます。
これらのこと全て更年期障害の症状とされます。
東洋医学では更年期障害と見るのではなく、身体の状態を見ていきます。
そうすることで更年期障害一つでも様々な原因や症状を鑑別でき、それぞれに合った治療法をしていくことができます。
ここが鍼灸治療の一番の強みだと思います。
特に更年期障害で治療に来られる方で一番多い症状が「睡眠の問題」です。
寝つきが悪い、眠りが浅く疲れが取れない、何度も目が覚めるなど。
睡眠の質を上げるツボとして失眠(しつみん)があります。
どんな睡眠障害にも効くとは言えませんが、セルフケアで失眠をツボ押しやお灸をするといいでしょう。
失眠とセットで足三里と三陰交などを組み合わせると効果は大きくなります。
他の方法でも眠れないときは無理に寝床に入ろうとせず、桶などにお湯を溜め足湯をするのもお勧めです。
足湯はとてもリラックス効果があり、寝つきが良くなり、睡眠の質も上がります。
更年期障害で多い、冷え・のぼせにも足湯は効果的です。
睡眠の問題には肝の影響があり、肝は目と関連が高く、目の疲れやパソコンなどで目を酷使すると気がのぼせて睡眠の質が落ちます。
目の疲れを癒してから眠りにつくといいので、風池・太陽をツボ押ししてあげると効果的です。
睡眠の質が上がることで、他にある症状も改善されることもよくあります。
自律神経の乱れはとにかく睡眠の質を上げることが大切になります。
更年期障害の治療で大切なのは、先述の通り更年期障害の原因は様々です。
更年期障害をひとくくりにせず、体質に合わせて治療していくことができるのが鍼灸治療です。
西洋医学の薬での治療は、もう我慢ができないくらい辛いときなどに使うことはいいですが、薬を使い続けても体質が改善されることは難しいでしょう。
根本から改善するには自分自身の身体を変えていく必要があります。
それが自然治癒力です。
自然治癒力が高いと肉体的にも精神的にも健やかにいられます。
その自然治癒力を高めることが鍼灸治療にはできます。
逸見鍼灸代表
逸見 裕
筆者
鍼灸師として活動しながら、東洋医学の素晴らしさを現代医学で理解することでより深い鍼灸治療を提供します。東洋医学だけではなくトレーニングやカイロプラクティックを取り入れ、人の身体に対し幅広くアプローチを行い健康社会の実現を目指します。
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